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小久保康昌
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トピックス

Essay of Muro disease Vol.2

ALS/PDC and Cycads (2)

BMAA, a toxin derived from cycads

 

Cycads (Cycad) are toxic in themselves, and if eaten, they must be repeatedly soaked in water to remove the toxins, otherwise they can cause acute liver damage and, in the worst case, death. In Guam, people once ground the seeds of cycads that had been soaked in water, made a paste, and baked it into a tortilla-like bread. This was a high-calorie starch-based food. (Figure 1)

The acute toxicity of cycads is caused by formaldehyde, which is produced when cycasin is metabolized. Formaldehyde is also a carcinogenic substance. The cycad theory in Guam was proposed by Leonard T. Kurland (1921-2001), a leading expert in neuroepidemiology at the U.S. National Institutes of Health (NIH), based on field research conducted by cultural anthropologist M. Whitnee. It was later continued by Peter Spencer and Paul A. Cox.

BMAA (β-methylamino-L-alanine), which is suspected to be a cause of ALS/PDC, is a non-protein amino acid produced by cyanobacteria (blue-green algae) (Figure 2) that parasitize the roots of cycad. Cyanobacteria have existed on Earth since ancient times and produce oxygen from carbon dioxide. The Chamorro people of Guam had a tradition of eating fruit bats. Paul A. Cox hypothesized that BMAA was concentrated in the fruit bats that ate cycad fruits, and that consuming these bats led to the onset of ALS/PDC in the Chamorro people (Figure 3). We therefore analyzed BMAA levels in the brains of ALS/PDC patients from Kii using mass spectrometry. The results showed that BMAA was not detected1)

On the other hand, Peter Spencer proposed that MAM (methylazoxymethanol), a compound generated during the conversion of cycathin to formaldehyde, is the true neurotoxin. Additionally, he explained that in the Kii Peninsula, where cycad are not consumed, the disease may develop from taking a traditional Chinese medicine made by boiling the seeds of cycad2). However, while traditional Chinese medicines derived from cycad do exist, they are not used in the affected areas, and this explanation feels somewhat forced.

1)    Kokubo Y, Banack SA, Morimoto S, Murayama S, Togashi T, Metcalf JS, Cox PA, Kuzuhara S. β-N-methylamino-L-alanine analysis in the brains of patients with Kii ALS/PDC. Neurology 2017;89:1091-1092. 

2)    Spencer PS, Ohta M, Palmer VS. Cycad use and motor neurone disease in Kii peninsula of Japan. Lancet 1987;2:1462-1463

牟婁病 徒然草 Vol.2

牟婁病 徒然草 Vol.2

ソテツ由来毒であるBMAA 

 ソテツ(Cycad)はそれ自体に毒性があり、食べる場合には繰り返し水にさらして毒抜きをしないと急性肝障害から最悪、死に至る。グアムでは、かつて、よく水にさらしたソテツの実を挽いて粉にし、練ったものを焼いてトルティーヤのようなパンを作った。高カロリーのデンプン食である。(図1)

ソテツの急性毒は、サイカシン(cycasin)が代謝されて生じるホルムアルデヒドによる。ホルムアルデヒドは、発がん性物質でもある。グアム島のソテツ説は、文化人類学者のM. Whitnee 女史によるフィールド調査の結果を受けて米国NIHで神経疫学の大家であったLeonard T. Kurland(1921-2001)によって提唱され、その後、Peter Spencerと Paul A. Coxに引き継がれた。

ALS/PDCの原因ではないかと疑われているBMAA(β-メチルアミノ-L-アラニン)は、

ソテツの根に寄生するシアノバクテリア(藍藻cyanobacteria) (図2)) が産生する非タンパク性アミノ酸である。シアノバクテリアは、太古から地球上のあらゆる場所に存在し、二酸化炭素から酸素を生み出す。グアムのチャモロ人には、フルーツコウモリを食べる習慣があった。Paul A. Coxは、ソテツの実を食べるフルーツコウモリにBMAAが濃縮され、それを食べたチャモロ人にALS/PDCが発症する(図3)、と考えた。そこで我々は、紀伊ALS/PDCの患者脳内のBMAAについて質量分析計を用いて分析した。結果は、BMAAは、検出されず1)、だった。

一方、Peter Spencer は、BMAAではなくサイカシンからホルムアルデヒドに至る途中で生成するMAM(methylazoxymethanolメチルアゾキシメタノール)が神経毒の正体だと考えた。また、紀伊半島ではソテツは食べないので実を煎じた漢方薬を飲むことで発症する2)、と説明した。しかし、ソテツ由来の漢方は実在はするが多発地で使用されてはおらず、こじつけ感が否めない。

Courtesy provided by P. Spencer. Canadian Journal of Neurological Sciences 

https://ja.wikipedia.org/wiki/藍藻

Cox PA, Banack SA, Murch SJ. Biomagnification of cyanobacterial neurotoxins and neurodegenerative disease among the Chamorro people of Guam. 

PNAS 1001338013383, 2003

1)    Kokubo Y, Banack SA, Morimoto S, Murayama S, Togashi T, Metcalf JS, Cox PA, Kuzuhara S. β-N-methylamino-L-alanine analysis in the brains of patients with Kii ALS/PDC. Neurology 2017;89:1091-1092. 

2)    Spencer PS, Ohta M, Palmer VS. Cycad use and motor neurone disease in Kii peninsula of Japan. Lancet 1987;2:1462-1463

 

牟婁病 徒然草 Vol.1

ALS/PDCとソテツ (1) 

 

筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合(ALS/PDC) は、世界中でグアム島、紀伊半島、そしてパプア(パプアニューギニアではなく、インドネシア国パプア州。ニューギニア島の西半分。) にのみ存在する神経難病である。患者は、家族歴を有することが多く (患者の70-80%に同じ病気の血縁者がいる) 同じ家系内にALSやPDC (パーキンソン症状と認知症を併発する)が共存する。紀伊半島では、和歌山県と三重県の南部沿岸地域に多発地があるが、この地域は歴史的に“牟婁”と呼ばれてきたので地元ではALS/PDCは、“牟婁病”と呼ばれてきた。グアム島は、1521年にマゼランが世界一周をした際に西洋人に初めて“発見”され、1565年にスペイン領となった。ALS/PDCがいつからグアム島に存在したのか、という興味深い問題については、スペイン領となった300年余り後の1870年代にde la Corteという人物によってALS/PDCと思われる疾患の初めての記載がある。ALS/PDCがこのころに急に現れたのか、スペイン人がそれまでこの疾患に気づかなかったのか、その点についてはよくわからない。1898年のスペイン-アメリカ戦争の結果、グアム島はアメリカ領となる。太平洋戦争期の日本領時代を経て、戦後、アメリカの準州となった。ALS/PDCは、1950年代にアメリカの疫学研究者たちによって再発見された。グアム島のALS/PDCは、土着のチャモロ人に特有の疾患とされており、発病の原因は、チャモロ人の生活習慣や食習慣に起因するのではないかと考えられた。米国NIHの文化人類学者であるM. Whiting 女史(https://manoa.hawaii.edu/library/research/collections/archives/manuscript-collections/other-manuscript-collections/marjorie-grant-whiting-papers/) は、1962年にグアム島のALS/PDC多発地区であったUmatac (マゼランがグアムにやって来た時の寄港地) の民家で半年間生活し、チャモロ人がソテツの実から作ったトルティーヤを常食していることを発見した。このことから、ALS/PDCのソテツ説が唱えられた。M. Whiting 女史は同じ年に2ヵ月間和歌山県の牟婁病多発地で生活しているが、地域の人々にソテツの摂取はなかったと報告している。我々は、紀伊半島でのソテツ原因説を否定している。その根拠は、①牟婁地方でソテツは食さない、②ソテツを常食する奄美大島にはALS/PDCが存在しない、③26年間グアム島に潜伏しソテツを常食していた旧日本兵の横井庄一さんは、晩年パーキンソン症状を患ったが、解剖の結果ALS/PDCではなくパーキンソン病だった、④牟婁病の患者脳を用いた質量分析の結果、ソテツによる神経毒とされるBMAAは検出されなかった。(2)しかし、神経病理学的に酷似する(むしろ同一と言ってもいい)疾患の一方であるグアム島でソテツが原因で起こったとしたら、もう一方の紀伊でソテツそのものではなくてもソテツに類似した物質が発症原因になっている可能性はあるのだろうか?

第66回日本神経学会学術大会 学生・研修医演題 最優秀口演賞 受賞

第66回日本神経学会学術大会 学生・研修医演題 最優秀口演賞 受賞を、研究グループの加藤玖里純が受賞しました。

研究テーマは、「Kii ALS/PDC患者におけるSSBP1-HSF1 axis異常とミトコンドリアタンパク質恒常性破綻」です。

令和5年度三医会賞(医学研究部門)受賞

公益財団法人 三重医学研究振興会、令和5年度三医会賞(医学研究部門)を、研究グループの森本悟が受賞しました。

研究テーマは、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)および関連疾患の病態解明と治療開発」です。

第49回難病医学財団医学研究奨励助成金受賞

公益財団法人 難病医学財団、令和6年度医学研究奨励助成金受賞【一般枠】を、研究グループの森本悟が受賞しました。

研究テーマは、「筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合(Kii ALS/PDC)のニューロン‐グリア‐ミトコンドリア連関に立脚した病態解明と創薬研究」です。

牟婁病 徒然草 Vol.1

ALS/PDCとソテツ (1) 

筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合(ALS/PDC) は、世界中でグアム島、紀伊半島、そしてパプア (パプアニューギニアではなく、インドネシア国パプア州。ニューギニア島の西半分。) にのみ存在する神経難病である。患者は、家族歴を有することが多く (患者の70-80%に同じ病気の血縁者がいる) 同じ家系内にALSやPDC (パーキンソン症状と認知症を併発する)が共存する。紀伊半島では、和歌山県と三重県の南部沿岸地域に多発地があるが、この地域は歴史的に“牟婁”と呼ばれてきたので地元ではALS/PDCは、“牟婁病”と呼ばれてきた。グアム島は、1521年にマゼランが世界一周をした際に西洋人に初めて“発見”され、1565年にスペイン領となった。ALS/PDCがいつからグアム島に存在したのか、という興味深い問題については、スペイン領となった300年余り後の1870年代にde la Corteという人物によってALS/PDCと思われる疾患の初めての記載がある。ALS/PDCがこのころに急に現れたのか、スペイン人がそれまでこの疾患に気づかなかったのか、その点についてはよくわからない。1898年のスペイン-アメリカ戦争の結果、グアム島はアメリカ領となる。太平洋戦争期の日本領時代を経て、戦後、アメリカの準州となった。ALS/PDCは、1950年代にアメリカの疫学研究者たちによって再発見された。グアム島のALS/PDCは、土着のチャモロ人に特有の疾患とされており、発病の原因は、チャモロ人の生活習慣や食習慣に起因するのではないかと考えられた。米国NIHの文化人類学者であるM. Whiting 女史(https://manoa.hawaii.edu/library/research/collections/archives/manuscript-collections/other-manuscript-collections/marjorie-grant-whiting-papers/) は、1962年にグアム島のALS/PDC多発地区であったUmatac (マゼランがグアムにやって来た時の寄港地) の民家で半年間生活し、チャモロ人がソテツの実から作ったトルティーヤを常食していることを発見した。このことから、ALS/PDCのソテツ説が唱えられた。M. Whiting 女史は同じ年に2ヵ月間和歌山県の牟婁病多発地で生活しているが、地域の人々にソテツの摂取はなかったと報告している。我々は、紀伊半島でのソテツ原因説を否定している。その根拠は、①牟婁地方でソテツは食さない、②ソテツを常食する奄美大島にはALS/PDCが存在しない、③26年間グアム島に潜伏しソテツを常食していた旧日本兵の横井庄一さんは、晩年パーキンソン症状を患ったが、解剖の結果ALS/PDCではなくパーキンソン病だった、④牟婁病の患者脳を用いた質量分析の結果、ソテツによる神経毒とされるBMAAは検出されなかった。(2)しかし、神経病理学的に酷似する(むしろ同一と言ってもいい)疾患の一方であるグアム島でソテツが原因で起こったとしたら、もう一方の紀伊でソテツそのものではなくてもソテツに類似した物質が発症原因になっている可能性はあるのだろうか?

1)MJ Whiting. Food practice in ALS foci IN Japan, the Marianas, and New Guinea. Third conference of toxicity of cycads. Federation Proceeding. 1964;23:1343-1345. 

2) Y.Kokubo, S.Morimoto, M.Yoshida. Questioning the cycad theory of Kii ALS-PDC causation. Nature Reviews Neurology 2024 https://doi.org/10.1038/s41582-024-00936-0

小久保康昌招聘教授が「神経変性疾患領域における難病の研究 水準の向上や患者のQOL向上に資する研究」ワークショップで発表(2024.7.19)

小久保康昌招聘教授が下記の通り、「神経変性疾患領域における難病の研究 水準の向上や患者のQOL向上に資する研究」ワークショップで発表します。

厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業

「神経変性疾患領域における難病の研究 水準の向上や患者のQOL向上に資する研究」

令和6年(2024年)度 ワークショップ

2024年7月19日(金) JA共済ビル カンファレンスホール

演題名:ALS/PDC -研究の歴史と最近の話題-

三重大学 地域イノベーション学研究科招聘教授 小久保康昌

関係論文が国際雑誌に掲載(2024.5.15)

Leventouxおよび森本らによる「iPS細胞由来アストロサイトを用いて、CHCHD2遺伝子の減少に伴うミトコンドリア機能不全がKii ALS/PDCの病態であることを解明」に関する原著論文が国際雑誌「Acta Neuropathologica(Impact Factor: 16.2)」に掲載されました。

Title: Aberrant CHCHD2-associated mitochondriopathy in Kii ALS/PDC astrocytes.

三重大学のプレスリリース記事

https://www.mie-u.ac.jp/news/topics/2024/05/post-3193.html

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