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紀伊半島のALSとPDCの臨床症状

紀伊半島のALSは、その他の地域のALSとはなにか違いがあるのでしょうか。紀伊半島のALSの臨床症状は、和歌山医大のグループと我々の研究グループによって、他の地域のALSと変わりがないことがわかっています。すなわち、手や足の筋萎縮と筋力低下、舌の萎縮とのみこみにくさ、しゃべりにくさなどです。また、腱反射の亢進など、錐体路徴候といわれる症候も、高頻度にみられます。認知症などの精神症状はみられません。このように、臨床症状だけからは、紀伊半島のALSは、通常のALSと区別がつきません。ただし、紀伊半島のALS患者さんの中には、通常よりも経過の長い方がおられます。10年以上、人工呼吸器なしで食事を経口摂取されていた方もいました。

では、PDCの臨床症状の特徴は、何でしょうか。PDCは、やはりグアム島のALS調査の過程で、新しい疾患として1960年代に確立されたものです。PDCは、病名の通りパーキンソン病様症状(動作が遅くなる、歩行障害、手や足のふるえなど)と物忘れや意欲低下、抑うつ症状といった認知症症状が主体となる疾患です。また、PDCには、高率に手足の筋萎縮を合併します。また、腱反射の亢進など、錐体路徴候といわれる症候も、高頻度にみられます。このように、PDCには、ALS症状をともなうことが多いのですが、一見したところ、ALSとPDCは、別の疾患に見えます。


それでは、紀伊半島のALSとPDCは、どういう関係にあるのでしょうか。ALSとPDCは、同一地域に多発しています。世界中で、グアム島と紀伊半島以外に同じ疾患は、報告されていません。また、同じ家系内にALSの発症者、PDCの発症者が混在しています。PDC患者の70%以上に、家族内にALSもしくはPDC の罹患者が認められます。このように、地域性と血縁の関係から、両者は密接に関係しています。一方、紀伊半島とグアム島のALSには、いくつか共通する特徴があります。その一つは、脳内に神経原線維変化という、特徴的な物質がたくさん蓄積することです。神経原線維変化は、アルツハイマー病などその他の神経疾患でも出現し、主成分はタウと呼ばれるタンパク質です。(図4)

脳に蓄積する神経原繊維変化とタウ蛋白分析

PDCにも神経原線維変化が多数出現します。タウ蛋白の蓄積する疾患は、タウオパチーと呼ばれており、紀伊半島のALSとPDCもタウオパチーに含まれます。また、2006年に発見され、神経変性疾患の新しい原因物質として注目されているTDP-43という蛋白質もALS/PDCの脳内に蓄積していることがわかりました。このような病理変化の点から、我々はALSとPDCは一つの疾患単位で、症状の出現の仕方が異なるのだろうと考えています。(図5)

紀伊ALS/PDCにおけるALS症状、パーキンソン症状、認知症の関係

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